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健は山谷に来てから朝が早くなった。起きるとすぐに簡易食堂に行き、その足で麻雀荘に行ってしまう。

誰もまだ来ていない、ガランとした室内に牌を出し、ひろい(積み込み)の練習をはじめる。卓上に腕時計をおき、牌をかきまぜながらすばやく山を積む。秒という時間でこしらえるのである。

特定の牌をよって積むからといって、客よりずっと早くこしらえなければならない。客よりおそくては、好牌が無くなるし手つきの不自然さも見破られる。

全部裏返しにしておいて、モウ牌だけで積む。”ロッケン”といって小指と親指の間に六枚の牌をはさむ。六枚という数がどの積み込みにも重要な数なのである。いちいち数えているようではおそくなるから、すっと六枚はさめるように、指にその感覚を教えこまねばならない。すると、不自然な手の動きをずいぶんと無くすことができるのである。

こうして、数時間、汗を流す。このトレーニングは、バイニンならば一日も欠かせない。出目徳も、上州虎も、私も、この点に関しては勤勉である。我々は、この鍛錬によって、ひろいの腕も自信を植えつける。

アッと驚くような大技は、こういう糞度胸がないと成功しないのである。トレーニングをしばらくやらなかったところで、実際には手の動きは変らない。けれども練習充分に張りつめているときとちがって、どこか不安が生ずる。気持がいかさま業一本に定まらない。この逡巡が大きい。だからバイニンは、一日も怠けない。

いかさま業でなくても同じことである。勝負事の必勝法を問われたら、こう答えたい。自信をつけることであると。自信のない方が先にオリる。麻雀は、技術が同じなら、オリの早い方が負けである。

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「麻雀放浪記(一) 青春編」 阿佐田哲也