"「人間中心のデザイン」や、イノベーションにおける「人間中心」の重要性について、数多くの本が執筆されている。しかし、真の成功例がこれほど少ないのだから、私たちはニーズを見出し、それにデザインで応えるのが難しい理由を自問する時期に来ているといえるだろう。人間の抱える基本的な問題とは、人間は不便な状況に適応するのに長けているということだ。そのため、自分がシートベルトの上に座ったり、手に暗証番号を書き留めたり、ドアノブに上着を引っかけたり、自転車のチェーンを公園のベンチに留めたりしていることに、気付いてさえいない場合も多い。「顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと速い馬が欲しいという答えが返ってきただろう」と述べたヘンリー・フォードは、この点を理解していたのだ。単に人々に望みを尋ねるだけのフォーカス・グループやアンケートといった従来の手法では、めったに重要な洞察を得られないのはそのためだ。従来の市場調査の手法は、漸進的な改良の参考としては役立つ場合もあるだろう。しかし、ルールを破り、競争を一変させ、パラダイムを変化させる画期的なアイデア、つまり誰もが頭を掻きながら「なぜ今まで誰も思い付かなかったのだろう」と首をひねるようなアイデアにはつながらない。"